リウマチ科

リウマチ科

診療科のご案内

 当科では関節リウマチ、脊椎関節炎、シェーグレン症候群、強皮症、多発性筋炎、皮膚筋炎、全身性エリテマトーデス、ベーチェット病、血管炎症候群など膠原病の診療をおこなっており、特に脊椎関節炎の患者さんが多いのが特徴です。複数の医療機関を受診しても原因の分からない、首や肩、背中、腰、臀部、股関節や手足などの痛みや強ばりは、脊椎関節炎の可能性があります。脊椎関節炎は、躯幹や四肢に強い痛みや痺れを訴えていても、CRPや赤沈も含めて血液検査では全く異常を示さない症例も多く、また、治療されなくても改善と増悪を繰り返すself-limitedな経過を示すことから、診断が困難となります。ですから当科では、患者さんの症状が強い時期に来院していただき、リウマチケア看護師による問診、ソノグラファーによる関節エコー、血液検査、X線写真、CTまたはMRI撮影を1日で済ませ、症状の経過や身体所見、画像所見から初診日に診断し、生活指導することも少なくありません。
 脊椎関節炎の診療に携わるまで、運動器の痛みと食事が関係しているとは全く考えておりませんでしたが、肥満でなくても、腰背部痛や四肢の痛みで困っておられる人には、糖質の過剰摂取や間食が多い印象です。以前には薬物療法でコントロール困難な場合に、診察室で次の治療方法が示せず困っていましたが、現在では定期受診時に毎回食生活を詳しく伺って、食餌や生活の指導を繰り返しています。これにより、患者さん側からは分かりづらい薬物使用を続けるだけでなく、患者さんと疾患概念を共有して、日常生活の改善という課題で、患者さん自身にも治療に責任を持っていただくことができるようになりました。
 脊椎関節炎は、前述のように治療されなくても改善と増悪を繰り返しますが、炎症を誘導するサイトカインの増加により血管障害を引き起こし、心筋梗塞や脳梗塞などの心血管イベントを来すようになりますから、出来るだけ早期に診断し、薬物療法と並行して生活指導をすることが重要です。
 私たちは患者さん一人ひとりの病状や不安をしっかりと把握し、それぞれの患者さんに合った心と身体のケアに努めて参ります。あなたにあった治療を一緒に考えていきましょう。診察室でお待ちしています。
 必ず、予約のお電話をいただいてからお越し下さい。症状が強い初診の方は、優先的に診察させていただきます。

外来担当医表

受付時間 月曜日 火曜日 水曜日 木曜日 金曜日
午前 8:30~11:30 答島章公 答島章公
(予約のみ)
答島章公 答島章公 答島章公
(新患のみ)
午後 答島章公
(予約のみ)
答島章公
(予約のみ)
答島章公
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代表疾患・治療

 当科では、関節リウマチより脊椎関節炎の患者さんの割合が多いのが特徴で、脊椎関節炎はCommon disease(ありふれた疾患)であるという認識のもとに診療を行っています。脊椎関節炎の患者さんでは、親子や兄弟姉妹など血縁者に同様の関節症状を持っておられる場合が多く、ご夫婦で脊椎関節炎と診断されるケースもあり、遺伝因子や環境的リスクの重要性を実感しております。ここでは、脊椎関節炎をどのように診療しているかを解説いたします。

  • 脊椎関節炎(乾癬性関節炎、腸炎性関節炎、強直性脊椎炎など)

     関節や筋肉の痛みを訴えて、複数の医療機関を受診しても原因が分からない場合には、原因の一つとして脊椎関節炎を疑ってみてください。子供さんでも、ご両親のどちらかに時々起こる腰痛や首の強ばり(寝違え)、または手足の痛みがある場合には、脊椎関節炎の可能性があります。
    ~子供から大人まで、大勢います。メタボでストレス時代の関節炎~
     身体の様々な部位の痛みで日常困ってらっしゃるのに、血液検査や画像所見で異常なしと言われ、原因が分からず不安、というのが脊椎関節炎の患者像です。

    脊椎関節炎の自覚症状 脊椎関節炎の自覚症状  これらは脊椎関節炎の症状ですが、「寝起きに首が強ばり、動かそうとすると痛い」という症状は、「寝違えた」と感じられることもあります。肩こりがひどい、肩甲骨の内側や背中が痛い、腰が強ばって痛い、片方の股関節が痛くて正座ができない、あぐらが組めない、臀部が左右交互に痛くなる、踵や足の裏が痛いという訴えもよくあります。
     そして、肩の痛みであれば、五十肩、腰痛であれば椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などの軽微な変化を原因とされ、リリカやトラマールなどが処方されていることが多く、全身の高度な痛みであれば線維筋痛症を疑われ、小児の運動器の痛みは成長痛として処理されていることもあります。「痛い部位が移動する」という症状は、脊椎関節炎に特徴的な病態である腱付着部炎の性質と関連しており、関節リウマチとの鑑別に役立ちます。 腱付着部炎は脊椎関節炎の特徴的な病態  脊椎関節炎と関節リウマチは、関節炎としての症状は似ていますが、炎症の起点、起こり方が両者では大きく違っています。関節リウマチでは関節の内側を覆っている滑膜に炎症の起点があるのに対して、脊椎関節炎では腱や靭帯の付着部に炎症の起点があり、脊椎関節炎の病態は付着部炎です。これは腱や靭帯、筋膜、関節・滑液包、脂肪などが骨に付着する部位に起こる炎症です。付着部炎は白血球や間質細胞から放出されたIL-23、IL-17、TNF等のサイトカイン(細胞間のメッセージ物質)が関与し、骨芽細胞や破骨細胞に作用して骨増殖(骨新生)や骨破壊を促進します。 付着部炎は白血球や間質細胞から放出されたIL-23,IL-17,TNF等のサイトカインが関与し、骨増殖(骨新生)や骨破壊を促進 付着部炎の過程  脊椎関節炎の病態である腱付着部炎の経過を、図に示します。腱付着部では、遺伝因子や機械的ストレス(使い過ぎ)を始めとする環境因子が関与して活性化された免疫細胞から放出された、様々なサイトカイン(IL-23, IL-17a, TNF)やプロスタグランジン(PGE2)の影響で、骨髄腔内の好中球が局所に浸潤していって、好中球や血管が豊富な炎症組織が出来上がっていきます。そして間質系細胞がサイトカイン(IL-17, IL-22)の作用により分化、増殖して骨増殖を来します。
     腱付着部炎の痛い時期である炎症期は、数時間から数日と言われています。 痛いところが移動する  ですから、ある部位に腱付着部炎が発生しても数日で治っては、他の部位が炎症をきたし、痛いところが移動するという感覚になります。 関節リウマチと脊椎関節炎の症状の現れ方の違い  この付着部炎の特徴から、関節リウマチと脊椎関節炎の症状の現れかたの違いが理解されます。このグラフは関節痛の推移を緑で示し、関節破壊の経過を赤で示しますが、関節リウマチでは無治療の場合、痛みがずっと持続します。一方、脊椎関節炎は無治療の場合でも痛みが増悪と緩解を繰り返します。精神的あるいは肉体的なストレスが掛かった時には痛みは増悪し、しばらくすると痛みは無くなります。疼痛や腫脹、関節エコーやMRIで急性期の炎症を捉えるには、症状が悪化した時期に診察をしないと、1カ月後、2か月後に予約して診察しても症状や超音波検査等の画像所見が消失している可能性があります。これが、そもそも脊椎関節炎の診療を困難にしている可能性があります。ですから当院では、症状の強い早い時期に予約をとり、血液検査や関節エコー、CTまたはMRIを全て1日で終えて、その日のうちに診断するように心掛けています。 脊椎関節炎の症状 これらは、脊椎関節炎の症状です。末梢関節炎や脊椎炎、仙腸関節炎、指趾炎やそれに伴う爪病変があります。

    脊椎関節炎診断のポイント
     複数域の関節症状を訴えている人を診察するとき、まず関節やその周囲、腱付着部などの圧痛や腫脹を確認します。次に、手足の爪を観察します。脊椎関節炎に合併する爪病変には、横溝や点状陥凹、爪の先が二重になったり、剥がれたように見える爪甲剥離や、爪白癬(水虫)のように爪が分厚くなった爪甲下角質増殖などがあります。 爪甲剥離や爪白癬  足の爪は、手の爪に比べると機械的ストレスを履物や重力により持続的に受けていますから、足の方が付着部炎の影響を受けやすいと考えられます。ですから、爪は手だけでなく、必ず靴下を脱いでいただいて足も見なければなりません。若年者では手の指の爪は異常が無く、足の爪のみがわずかに変形していることもよくあります。少し見るだけでは分かりません。スマートフォンで撮影して、拡大して観察します。爪乾癬と爪白癬の鑑別は困難です。一般には爪の一部を削って顕微鏡で検査をして、真菌が陽性であれば爪白癬と診断されます。しかし、爪白癬に罹患している人が、後に爪乾癬を発症することも考えられます。爪白癬では、爪甲の表面は硬く、光沢もあり、爪が欠けてくることはないので、爪に欠けた部分があれば爪乾癬の可能性が高いとされています。 足の爪 爪の観察と同時に、指や趾が腫れていないか、観察します(指趾炎)。 指趾炎  指趾炎は、腱や靭帯、軟部組織の付着部炎により指趾が腫れます。典型例では指全体がソーセージのように腫れていますが、爪に最も近い関節の腫れだけが目立つ場合もあります。このような場合でも、関節エコーで腱外軟部組織の炎症が確認されます。
     次にエコー検査で、手足や肘、肩、鎖骨、膝などの関節が腫脹し痛む部位を観察します。脊椎関節炎では、腱や靭帯、筋膜、関節・滑液包(滑膜含む)、脂肪が骨に付く部位(付着部)の炎症(付着部炎)が血流シグナル(赤)の増加として確認されます。同時に骨表面の変化も観察します。 関節超音波検査  関節のX線写真も撮影します。脊椎と手足は2方向から撮影し、靭帯棘や骨新生、骨びらん、骨硬化の有無を確認します。臀部の仙腸関節は正面、左右側面の3方向から撮影し、関節間隙の不整や骨びらん、骨硬化などを調べます。 関節超音波検査 関節超音波検査  脊椎のX線写真では、付着部炎の過程を示す所見として、椎体縁の骨びらん①や骨硬化像②、靭帯骨棘などがあります。

    腰や背骨、臀部に痛みのある患者さんでは、炎症性腰背部痛の問診を行います。
    炎症性腰背部痛の問診
     1. 若い頃から腰や背中の痛みがありましたか。
     2. 安静にしていても疼痛が改善しませんか。
     3. 夜間、寝返りで痛くなりますか。
     4. 静止していて背中や腰が痛くなったときに、動くと改善しますか。
     5. 急に痛くなったのでは無いのですね。

     3ヶ月以上続く腰痛で、上記5つの特徴のうち4つを認める場合は、炎症性腰背部痛と診断されます。

     炎症性腰背部痛が疑われる場合には仙腸関節MRI(STIR:脂肪抑制画像とT1w強調画像)検査も施行し、仙腸関節周囲の腸骨や仙骨に炎症所見(仙腸関節炎)が無いか調べます。 仙腸関節炎  仙腸関節周囲に炎症 (骨浮腫・骨炎)があると、
     脂肪抑制画像で、その部位が白く強調されます。
     CRP、赤沈やリウマチ因子、MMP-3など血液検査も実施し、1時間程で結果が分かります。
     患者さんには午前中に来院していただき、1日でこれらすべての検査を行うことで、その日のうちに診断が確定する場合も少なくありません。関節リウマチと違い、脊椎関節炎は無治療でも数日で痛みが軽減し緩解と増悪を繰り返しますから、患者さんの症状が強いときに1日で全ての検査を済ませることが大切と考えています。
     若年者や発症初期で画像所見に異常が認められない場合には、後日ご家族にも来院していただきます。両親や祖父母が腰や膝などの痛みとともに爪の変形や乾癬の皮疹を有していて、家族歴からご本人も脊椎関節炎(乾癬性関節炎)と診断されることも少なくありません。
    乾癬性疾患  TNFやIL-17などの炎症性サイトカインネットワークにより活性化された免疫担当細胞が引き起こす、これら全身の病態をPsoriatic disease(PsD) 乾癬性疾患として関連付けて診療することが推奨されています。ですから整形外科や皮膚科、眼科、消化器科、循環器科、内分泌代謝科等あらゆる診療科が連携して、脊椎関節炎患者さんを発見し、診療に取り組まなければなりません。

    脊椎関節炎は珍しい疾患では無く、Common Disease(ありふれた疾患)
     脊椎関節炎は、潰瘍性大腸炎やクローン病も含まれる炎症性腸疾患と同じTNF(腫瘍壊死因子)等のサイトカインが原因の疾患であり、炎症性腸疾患との合併例も多く、深い関係にあります。潰瘍性大腸炎やクローン病の患者数はこの30年間で8倍以上に増え、食餌やストレスなど生活習慣の変化が原因と考えられています。脊椎関節炎も炎症性腸疾患やメタボリックシンドロームと関連しており、患者数はこれらの疾患と同様に増加していると考えられます。
     脊椎関節炎の中でも典型的な病型とされてきた強直性脊椎炎に関しては、関連遺伝子であるヒト白血球抗原(HLA) -B27の陽性率が日本人では0.4%と少なく、日本人での有病率は0.02~0.03%と推測されており、海外に比べて極端に少ないのは事実です。しかし、急激な体重増加など肥満が発症に関連している乾癬性関節炎は、未だ診断されていない患者さんも含めると大勢おられると思われます。

    脊椎関節炎では、心血管イベントも起こしやすくなる
     活発に働いている内分泌器官である脂肪細胞は、TNFなどの炎症を誘導するサイトカインを産生します。肥満の人では、巨大化した脂肪細胞から分泌される多量の炎症誘導性サイトカインにより免疫細胞が誘導され、さらに炎症誘導性サイトカインや活性酸素が増加して血管障害を引き起こします。

肥満に伴うTNF α等のサイトカインや活性酵素の増加による血管内皮障害 乾癬性関節炎の多角的な影響  炎症を誘導するサイトカインにより血管内皮障害から動脈硬化が進展し、心筋梗塞や脳梗塞などの心血管イベントを引き起こします。脊椎関節炎を診断して治療に結び付けることは、運動器の痛みを軽減するだけでなく、生命予後の改善にも大きく寄与すると言えます。

脊椎関節炎の治療では、食生活や働き方が重要 乾癬性関節炎の環境的リスク因子  乾癬性関節炎の環境的リスク因子には、感染症やワクチン、外傷、重労働、喫煙、アルコール、などが挙げられますが、特に体重増加は重要です。痩せている人でも脂質や糖質の過剰摂取がリスクになります。また、重労働でなくても、草むしりや木の枝の剪定など、同じ筋肉を使う反復作業により付着部炎が増悪します。長距離歩行や長時間の作業では、こまめに中休みを入れることが重要です。  動物実験などから、手足の使い過ぎは付着部炎や骨棘を増加させることが分かっています。
 加齢やストレスは、免疫系や副腎等の内分泌系に影響を及ぼして、炎症性疾患の感受性を高めると言われています。それで薬物療法と並行して、食べ過ぎないこと、使い過ぎないこと、ストレスを軽減することを日常生活での注意事項として指導しています。

 食生活は、特に重要です。髙脂質・糖質食は炎症を増悪させ、魚の油や野菜(食物繊維)は炎症を減少させるとする報告もあります。関節炎は、食生活と密接に関係していると言えます。
 腸内細菌も、付着部炎の病態に深く関与しています。クロストリジウムやバクテロイデス等のある種の腸内細菌は、食物繊維を材料として酢酸、酪酸、プロピ オン酸などの短鎖脂肪酸を産生します。酢酸は脂肪細胞の表面にくっ付いて、細胞内に脂肪が取り込まれるのをブロックします。すると脂肪細胞は巨大化することなく、また細胞膜上にある短鎖脂肪酸受容体が活性化してインスリン感受性を高め、全身のエネルギー消費が高まり、肥満が解消されるのです。また、酪酸やプロピオン酸は制御性T細胞を増加させ、過剰な免疫応答が制御されて炎症性サイトカインの発現を抑制します。
食もつせんの接種で炎症性サイトカインの発言が抑制  食物繊維を多く摂ることは、肥満を改善させるだけでなく、サイトカインによる関節炎を鎮静化させる可能性があります。

脊椎関節炎の治療では、食生活や働き方が重要
 脊椎関節炎の初期治療は消炎鎮痛剤ですが、四肢の関節炎では関節リウマチの治療と同じように、メトトレキサートやスルファサラゾピリジンといった免疫調節薬を使用し、効果不十分であれば、TNF阻害剤やIL-23阻害剤、IL-17a阻害剤などの生物学的製剤やJAK阻害剤、PDE4阻害剤を用います。脊椎や仙腸関節などの痛みや付着部炎、指趾炎では、消炎鎮痛剤を使用して効かなければ、次に生物学的製剤やJAK阻害剤PDE4阻害剤を用います。 PsA治療  薬物療法と同時に、食餌指導も大切です。前述のように肥満では脂肪細胞の巨大化により炎症誘導性サイトカインが増加しますから、日常の食生活で食物繊維の摂取を推奨し、糖質など炭水化物の摂取を抑えること(カロリー・ゼロやオフ食品はインスリン分泌を促進し、食欲を増進させるの可能性があるので注意が必要)により、腸内環境を改善させることが重要と考えられます。
 
 原因の分からない運動器の痛みに悩んでおられる、脊椎関節炎の患者さんが大勢います。
 お知り合いにそのような方がおられましたら、是非、当センターにお越しいただきますようお勧めしてみてください。

医師紹介

  • 答島章公

    資格
    日本内科学会(指導医・総合内科専門医)
    日本リウマチ学会(指導医)
    日本消化器病学会(指導医)
    日本消化器内視鏡学会(指導医)
    日本リウマチ財団リウマチ登録医
    日本医師会認定産業医
    専門分野
    脊椎関節炎(強直性脊椎炎・関節症性乾癬等)
    リウマチ性疾患
    答島章公